薬局発ミュージカル、待ち時間に処方箋バラード

全国チェーン薬局が調剤待ちの退屈解消を狙い、薬剤師がジェスチャー付きで薬効を歌い上げる新サービスを導入。観客は処方よりチケットを求める状況となり、劇団雨期が「薬局直通オーディション」の検討を始めたという。

2025-08-02

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白衣はマントへ、薬袋は小道具へ――「開局」ではなく「開演」の鐘が鳴った。大手薬局チェーン「クスリ座」は10日、全国600店舗で薬剤師による歌唱劇『処方箋バラード』を正式上演した。従来「お待たせしました」で終わっていたカウンターは、今や「フィナーレまで15分」の電光掲示板を掲げ、客席番号付きの整理券を配る。店内に薬の粉ではなく演者の汗が舞い、ドラッグストアは一夜にしてブロードウェー支店へと変貌した。

導入のきっかけは「平均22分」という調剤待ち時間の世論調査。経営陣は「待たせるなら踊らせよ」の格言（※社内会議で決定）を採用し、教育費よりリズム感を重視した採用に舵を切った。その結果、店頭の横一列に並んだ薬剤師はダンスのフォーメーションで処方を回し、ピルカッターの音がハイハットとして編曲される。皮肉にも“待ち時間ゼロ”を目指したはずの改革が「あと一曲聴きたい」という要望で平均待ち時間を40分へ延長、顧客満足度だけが劇的に上昇した。

「観劇のついでに薬をもらえる」と評判は上々だ。高血圧の常連客は塩分控えよりチケット確保に奔走し、隣町の耳鼻科は「鼻詰まりでもスタンディングオベーション可能」と宣伝。SNSでは「解熱剤より心の火照りが止まらない」との投稿がトレンド入りした。一方で若手俳優は軒並み「調剤師免許取得講座」に殺到、厚労省は講義中のビブラート発声を是とするか否かで迷走している。

波及効果は医療界を超える。近隣の歯科医院は演出家を招き「麻酔オペラ」試演会を告知し、駅前銀行は「ローン契約レ・ミゼラブル化」を検討。観光庁は「クールジャパンの次はクールドラッグ」と謎の旗を掲げ、地方自治体は空き薬局を改装した「調剤シアター」で誘客を狙う。これに対し文化庁は「補助金は文化か薬かで分割可能」と玉虫色の回答を示した。

ただし、全てが夢のハーモニーとはいかない。日本医師会は「血中ユーモア濃度が規定値を超える」と警鐘を鳴らし、保険者団体は劇場効果で「症状の自己申告が感情過多になる」と苦言。薬機法の専門家は「“劇的改善”という表現が比喩か効能か曖昧」と指摘し、曲解ならぬ“薬解”リスクの高まりを示した。厚労省は「観客がアンコールを求めても処方は延長できない」とのガイドラインを発表したが、既に店内では「ロングリリース錠だけに長めのアンコール」のジョークが飛び交う。

クスリ座の広報は「次期演目はステロイド級の大作」と鼻息荒い。劇団雨期は薬局直通オーディションを検討し、製薬メーカーはラベルに「作曲：副作用チーム」と明記する構想を漏らす。薬袋片手に涙する観客と、カーテンコールで腕を振る薬剤師。かつて“待ち時間”と呼ばれた静寂は、今日も薬効たっぷりのメロディーで満たされている。