異世界と繋がる最新フィットネス、流した汗が「賢者の石」に。鑑定結果「ただの粗塩です」

SNSを席巻する「異世界転移エクササイズ」。実践者の汗がダイヤモンドのように結晶化し、フリマアプリで1グラム数万円で取引される騒ぎに。しかし鑑別機関が発表した成分は「純度98%の塩化ナトリウム」。専門家は「食卓塩より不純物が多い。舐めないで」と警告している。

2025-08-22

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異世界ポケット

異世界と繋がる最新フィットネス、流した汗が「賢者の石」に。鑑定結果「ただの粗塩です」

「ドラゴンブレスに耐えるプランク30秒」「聖剣エクスカリバーを引き抜くスクワット」。こんな呪文のようなメニューをこなすだけで、あなたの流した汗が「賢者の石」になる――。そんな夢のようなフィットネスが、自己実現と錬金術を求める現代人の心を鷲掴みにしている。提唱者は、元読者モデルで自称“時空サーファー”のセレスティア・ユイ氏（28）。「運動で高まったエーテル体が異世界の魔素（マナ）と結合し、汗腺から排出される際に結晶化するのです」と、自身の動画チャンネルで科学的根拠ゼロの説明を滔々と語る。

このエクササイズから生まれるというキラキラした結晶は、いつしか「賢者の石」と呼ばれ始めた。ハッシュタグ「#汗活」「#今日の賢者の石」には、ヨガマットの上に散らばる結晶の写真が連日投稿され、その美しさと希少性（と喧伝されたもの）から、フリマアプリでは「幸運を呼ぶ異世界の秘宝」「浄化用パワーソルト」などの触れ込みで1グラム数万円の高値で取引される事態に発展した。購入者からは「枕元に置いたら金運が上がった気がする」「お風呂に入れたら肌がツルツルになった」など、プラセボ効果のオンパレードとも言える声が相次いでいた。

この社会現象という名の集団幻想に終止符を打ったのは、国立中央鑑別研究所（東京・文京区）だった。世間の熱狂を冷めた目で見つめていた同研究所が、フリマアプリで「最高品質」として出品されていた結晶を独自に入手し、成分分析を実施。その結果は、あまりにも無慈悲なものだった。

「主成分は塩化ナトリウム。純度98%の、ごく普通の塩です」。同研究所の主任研究員、塩谷満（しおやみつる）氏は記者会見で淡々と語った。「残りの2%はカリウム、マグネシウムのほか、皮膚由来の角質や微量の皮脂などの有機物。平たく言えば、汗と垢が固まったものです」。会場に集まった記者たちの間からは、乾いた笑いともため息ともつかない声が漏れた。

この発表を受け、東都大学健康科学部の飽田道雄（あきたみちお）教授は「そもそも運動で流す汗の成分はほとんどが水と塩分。特別なことなど何もない」と一蹴。「分析結果を見る限り、市販の食卓塩（塩化ナトリウム純度99%以上）より不純物が多い。食用や美容目的での使用は衛生上、全く推奨できない。というか、やめてください。舐めないで」と、強い口調で注意を喚起した。

発表後、SNS上では「#ただの塩」「#塩活終了」がトレンド入り。あれほど「奇跡の結晶」ともてはやしたインフルエンサーたちは次々と投稿を削除し、一部は「最初から胡散臭いと思ってました」と見事なまでの手のひら返しを披露している。

一方で、提唱者のセレスティア・ユイ氏はSNSに「物質的な真偽は些末なこと。大切なのは、自分の可能性を信じる心という名の“真の賢者の石”です」とポエムを投稿。早くも次なるビジネスの匂いを漂わせている。虚構の石は砕け散ったが、人々が次なる「手軽な奇跡」を探す旅は、まだ始まったばかりのようだ。