古武術「水撃道」、達人が水道料金滞納で免許停止。宇宙との交信は一時中断。

宇宙エネルギーを水鉄砲に込める古武術「水撃道」。その唯一の師範が、道場の水道料金3ヶ月分を滞納し免許停止処分に。弟子たちは「蛇口が止められ、師範の『気』の流れも完全に止まった」と嘆き、公園の水道で修行を続けるも、鳩に水をかける迷惑行為で警察から厳重注意を受けている。

2025-09-03

文化カレイドスコープ

宇宙エネルギーを水鉄砲に込めて放つとされる古武術「水撃道」。その唯一の師範である水神一道（みずがみ・いちどう）氏（78）が、道場の水道料金3ヶ月分、計1万2450円を滞納したことにより、宗家連盟から師範免許の一時停止処分を受けていたことが30日、明らかになった。弟子たちは「蛇口が止められ、師範の『気』の流れも完全に止まった」と嘆き、近くの公園の水道で修行を続けるも、鳩に水をかける迷惑行為で警察から厳重注意を受けるなど、流派存続の危機に瀕している。

水撃道は、鎌倉時代に源頼朝が鶴岡八幡宮の池の水を竹筒で飛ばして戦勝を祈願したのが起源とされ、現代ではプラスチック製の水鉄砲を「霊水の発射媒体」として用いることで知られる。水神師範は、蛇口から出る水道水に「宇宙の波動」を同調させ、それを水鉄砲から放つことで「心身の浄化と次元上昇を促す」と教えてきた。その奥義「銀河水流波」は、一説には百年の恋をも冷ますほどの威力を持つという。

しかし、その宇宙との交信能力は、俗世の料金システムの前にはあまりにも無力だったようだ。関係者によると、水神師範は数ヶ月にわたり水道局からの督促状を「物質文明の雑音」として無視。水道局員が訪問した際にも「今はアルクトゥルス星との定例交信中である」として、門前払いしていたという。その結果、先週末に水道の供給が停止。エネルギー源を断たれた師範は、すっかり覇気を失ってしまった。

「師範は『宇宙の蛇口は無限だが、地上の蛇口は有限だったか…』と、呆然と乾いた蛇口を見つめておられる」。一番弟子の水川二郎（みずかわ・じろう）氏（45）は涙ながらに語る。師範を元気づけようと、弟子たちは公園の公共水道で修行を再開。しかし、師範の「波動」を注入されていないただの水では技にキレがなく、勢い余って平和の象徴である鳩を濡らしてしまい、散歩中の住民から通報される事態に発展した。

水撃道宗家連盟は本紙の取材に対し、「武の道を極める以前に、社会の一員としての義務を果たすべき。誠に遺憾」とコメント。一方、水道局の広報担当者は「お客様が宇宙と交信中であっても、検針と料金徴収は我々の使命です。お支払いいただければ、速やかに供給を再開いたします」と、極めて現実的な回答を寄せた。

専門家である東都文化大学の山川勉教授（比較文化論）は、「これは伝統的な精神主義が、現代社会のインフラシステムと衝突した象徴的な出来事だ」と分析する。「どんなに高尚な理念も、月々の公共料金という土台の上でしか成り立たない。水神師範が真に交信すべき相手は、遠い星々ではなく、地域の水道局だったのかもしれない」と指摘した。

宇宙の真理を探究する水撃道の道は、まず1万2450円の支払いを済ませることから再開される見通しだ。師範と弟子たちが再び清らかな「霊水」を手にできる日は来るのか。公園の鳩たちも、固唾をのんで見守っている。