月面ワーカー、時給1300円で急募。福利厚生は「無重力腰痛」と帰りの片道燃料代天引き

夢の月面移住計画、その実態は「宇宙一眺めの良い非正規雇用」。求人サイトには「未経験者歓迎」「アットホームな職場」と並ぶが、主な業務は隕石避けと太陽光パネルのホコリ掃除。輝かしい「月の宴」は、実際には月に一度支給されるプロテインバー1本だったことが判明。

2025-09-17

翻訳: EN

未来研究所

月面ワーカー、時給1300円で急募。福利厚生は「無重力腰痛」と帰りの片道燃料代天引き

人類の新たなフロンティア、月面。その輝かしい舞台の裏側で、地球の労働問題をそのままパッケージして打ち上げたかのような求人が物議を醸している。募集主は、新興宇宙開発企業「アストロ・ギグ・ソリューションズ（AGS）社」。同社は「宇宙での働き方の多様性を実現する」との崇高な理念を掲げ、月面基地での軽作業スタッフを時給1300円という「地球水準」で大々的に募集している。

求人サイトには「壮大な宇宙を眺めながら働ける、やりがいのあるお仕事です」「最先端技術に囲まれたクリーンな環境」といった魅力的な文言が躍る。しかし、本紙の取材で明らかになったのは、その詩的な表現とは裏腹の過酷な労働実態だ。主な業務は、飛来するマイクロ隕石を「俊敏性を養うトレーニング」と称して回避し続けることや、太陽光パネルに積もるレゴリス（月の砂）を「地球では得られないスキルが身につく」特殊なホウキで掃き続ける作業だという。

特筆すべきは、その斬新すぎる福利厚生だ。求人票に記載された「無重力腰痛」は、無重力環境下での長時間労働が引き起こす未知の職業病とみられる。これに対し、同社の人事担当者は「地球では決して体験できない、ユニークな身体的フィードバック。一種のステータスです」と胸を張る。さらに、契約満了後の地球への帰還費用は、給与から「自己成長のための投資」として天引きされる片道切符制。つまり、稼いだ給料の大部分が帰りの燃料代に消える仕組みだ。

労働者の士気を高めるためのインセンティブとして用意された「月の宴」も、その実態は月に一度、全フレーバーの中から好きなものを1本選べるプロテインバーの支給であることが判明した。ある現役ワーカーは匿名を条件に「選べるのはストロベリー味かチョコレート味だけ。先月は在庫切れでバニラ味だった」と、通信ラグの向こうから力なく語った。

宇宙労働法を専門とする東都大学の時田宇宙（ときた・そら）教授は、この状況を「まさに21世紀のデジタルタコ部屋。物理的に逃げられない場所でのギグエコノミーは、労働者の権利を星の彼方へ追いやる危険性を孕んでいる」と警鐘を鳴らす。教授によれば、現在の宇宙法には労働者の最低賃金や労働時間を直接規定する条文がなく、まさに「法の下の真空地帯」となっているのが現状だという。

AGS社は「我々はフロンティアスピリットを持つ挑戦者を求めている。時給や福利厚生といった旧時代的な価値観に囚われる人材は、そもそも我々のミッションにそぐわない」との声明を発表。SNSでは「#宇宙ブラック企業」がトレンド入りする一方、「それでも一度は働いてみたい」「地球よりマシかも」といった声も上がり、賛否両論が宇宙空間のように広がっている。

人類の活動領域が地球外にまで拡大する今、我々の労働倫理もまた、その重力圏を振り切ることができるのか。夜空に輝く月を見上げる我々の首の痛みは、未来への希望の重さか、それとも搾取の構造を見つめる疲れから来るものなのか。答えはまだ、真空の中だ。