「これは残業です」勇者、聖剣を床に突き刺しストライキ決行。魔王と組合結成へ

子供たちの声援が飛び交う中、勇者が突如ショーを中断。「契約書に魔王討伐は含まれていない。これは明確な残業だ」と宣言し、聖剣をステージに突き刺した。時給980円で雇われた魔王役の学生アルバイトもこれに同調、「我々の権利を！」と共闘を表明。現在、両者は次元間労働組合の結成に向け協議中。

2025-10-01

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異世界ポケット

事件が起きたのは、22日午後、大型ショッピングモール屋上で開催された「集え！ちびっこ冒険者！勇者と握手＆撮影会」でのこと。クライマックスで魔王が登場し、まさに勇者が必殺の一撃を繰り出す寸前、会場の熱気は突如として凍りついた。勇者は「世界の平和を守るというミッションと、週末の追加公演は別契約のはずだ」と、マイクを通して労働環境の改善を訴えたのだ。

勇者側の主張によれば、彼が王国（所属事務所）と締結したのは「魔王軍幹部との戦闘およびそれに付随するパフォーマンス」までを範囲とする業務委託契約。最終ボスである魔王との戦闘は「成果報酬型のオプション業務」であり、事前のインセンティブ交渉なき実演は明確な契約違反、すなわち“サービス残業”に当たるとのことだ。

一方、敵対していたはずの魔王もこのストライキに賛同。正体は近隣の大学に通う経済学部2年生、田中氏（仮名）で、時給980円のアルバイト契約だったことが判明。「契約書には『威厳ある態度で勇者に敗北すること』としか記載がない。アドリブで要求される“必殺技の応酬”や“アンコールでの復活劇”は時間外労働であり、精神的負荷も大きい」と窮状を訴え、「魔王にも人権ならぬ魔権がある」と語気を強めた。

この前代未聞の事態に、主催者であるイベント企画会社「ドリーム・クリエイターズ（株）」は混乱。同社担当者は本紙の取材に対し、「すべてのステークホルダー、とりわけ子供たちの顧客体験を最大化するための、アジャイルな現場判断だった」とビジネス用語を駆使して釈明。「勇者様のエンゲージメントが著しく低下している現状は誠に遺憾であり、原因究明と再発防止に向けたPDCAサイクルを迅速に回していきたい」と、どこか他人事のようなコメントに終始した。

この一件について、異世界労働法を専門とする賢者マグヌス氏（782歳）は「ファンタジー世界で蔓延する『やりがい搾取』の典型例。聖剣を労働紛争の調停申立書として突き立てる行為は、古代竜の時代から続く由緒正しい権利主張の方法である」と学術的に分析している。

現在、勇者と魔王は水面下で「次元間 Entertainers and Monsters 労働組合」、通称「ユニオン・エクスカリバー（仮）」の設立に向け協議を開始。ショーで毎回一撃で倒されるゴブリンやスライム役のエキストラたちも既に参加の意向を表明しており、ファンタジー業界全体を揺るがす大規模な労働争議に発展する様相を呈している。

子供たちの夢を守るはずのヒーローが、自らの権利を守るために剣を置いた。この光景は、現代社会への痛烈な皮肉か、それとも新たな時代の夜明けか。聖剣はペンより強し、されど労働三法には勝てず。世界の平和より、まずは自らの生活の平和が問われる時代となったようだ。