24時間で引退、最速アイドル誕生

新人グループ“ONE DAY”のセンターがデビューから24時間で電撃引退。「最速で伝説になりたかった」との理由にファンは呆然。運営は“推しロス保険”の商品化を検討している。

2025-08-07

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新人グループ“ONE DAY”のセンター、朝比奈ルナ氏（17）がデビューからわずか24時間でステージから降りた。「最速で伝説になりたかった」という紙飛行機のような理由に、ファンは開いた口にペンライトを挿し込んだまま固まっている。運営会社は“推しロス保険”なる涙のリサイクル商品を検討中と発表したが、泣きはらした眼には小さな文字が読めないらしい。

デビュー初日正午、渋谷の特設ステージは「たった一日であなたの一生モノ」と銘打たれ、盛大に火花を上げた。翌正午、同じ場所で引退会見。「人生はスキップ可能なMV」と語る朝比奈氏の後ろでは、まだ昼公演のリハーサル照明が点滅していた。記者席からは「照明よりコメントが眩しい」と苦情が出たが、既に彼女は眩しさごと舞台袖にフェードアウトしていた。

運営のスタークルーズプロは、ファンの心的ダメージを貨幣化するスピードも世界最速を狙う。示された“推しロス保険”試案は三段階。「ライトプラン」では推しが消えた翌朝、枕元にタオルを一枚届ける。「ヘビープラン」では希望者の自宅に等身大パネルを配送し、哀しみの代わりに置き場所の問題を提供。「修羅プラン」では保険料の二倍が“次の推し探し資金”として支払われるが、払戻時点で既に新ユニットがデビューしており財布が先にリタイアする設計だ。

業界関係者は冷ややかな祝辞を贈る。アイドル評論家・速水速記氏は「従来の最速記録は“３日天下”だった。令和はもはや日付すら不要、時刻表の単位で戦う時代」と語り、腕時計をストップウォッチに持ち替えた。労働政策研究所は「24時間労基非該当問題」を指摘したが、当事者は「自主的エンディング」で押し切り、厚労省は報告書を読む前にエンディングロールが流れた。

一方、ファン有志は“秒推し文化”の是非を巡りオンライン座談会を開催。平均発言時間は7.2秒で、「推し変」ボタンがマイクに付属していたとの噂も。音符がデジタル粉塵のように散るSNSでは「#推しロス24H」が世界トレンド入り。「涙の使用は一回限り、繰り返しは別料金」と自動返信が添えられる始末だ。

海外も失笑混じりに注目。英国紙は「ファースト・ラスト・シングル」と題し、日本の“推し”文化を「エクスプレス寿司」に例えた。韓国の芸能番組は「カムバより速い引退」と報じ、中国では“秒単位の執着心”として自己啓発書の棚に分類された。グローバルな皮肉が、たった24時間で回収不能の在庫となる速度社会を映し出す。

それでも会場跡には、推し色のラメが路面に絡みつき、風が吹くたびに“シャララ”と鳴る。そこを通り過ぎる通勤客は、足元の名残に気づかぬまま、今日という一日をいつもの速度で始めている。時間だけが確実に次のセンターを推している──そんな皮肉を噛み締める余裕も、現代の秒針は許してくれない。