未来望遠鏡、ついに完成。国家の未来は映さず「福袋の在庫状況」だけをリアルタイム中継。

国運を賭けた「時空望遠鏡」が映したのは、輝かしい未来ではなく、デパートの福袋争奪戦だった。GDP予測を期待した総理の目前に「限定フィギュア、残り3個」のテロップが点滅。総理は「これぞ国民に寄り添う経済指標」と絶賛、国家予算は福袋の転売市場予測に全額投入されることが閣議決定された。

2025-11-28

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国家の未来を正確に予測し、盤石な政策決定を実現する。そんな壮大な目標を掲げ、総工費30兆円を投じて建設された次世代観測施設「時空望遠鏡アマテラス」。タキオン粒子を利用して未来の事象を観測するという、ノーベル賞待ったなしの触れ込みで、国民の期待を一身に背負っていた。

19日、首相官邸の地下危機管理センターでは、歴史的な初観測の瞬間を固唾をのんで見守る政府首脳や科学者たちの姿があった。スクリーンに映し出されるはずの未来は、10年後の平均株価か、次世代エネルギーの構造式か。誰もが息を止めたその時、望遠鏡が捉えたのは、新宿の老舗百貨店の喧騒だった。

「緊急速報：幻のブランド和牛詰め合わせセット、残り5個！」「お一人様一点限り！人気アニメ限定フィギュア福袋、在庫僅少！」――。ノイズかと思われたテロップは、紛れもないリアルタイムの未来情報だった。呆然とする開発チームを尻目に、状況を一変させたのは、官邸の主、山田太郎総理その人であった。

「素晴らしいじゃないか！」総理は椅子から立ち上がると、スクリーンを指さしこう続けた。「GDPが2%上がったところで、国民の暮らしは豊かにならない。しかし、欲しかった福袋が手に入る未来が分かれば、どれだけの国民が幸福を感じることか！これこそが真の国民総幸福量（GNH）を測る指標だ！」。

この鶴の一声で、プロジェクトの評価は一変。「未来予測の失敗」は「ミクロ経済の可視化に成功した画期的偉業」へと昇華された。政府は直ちに臨時閣議を開き、来年度の国家予算の全額を「全国福袋在庫リアルタイム監視システム」及び「公認福袋転売市場の創設」に充てることを全会一致で可決した。

東都大学の経済学者、鈴木一郎教授は「従来の経済指標は国民の実感と乖離していた。福袋の需給バランスこそ、個人の消費意欲と可処分所得の動向を最も生々しく反映する。政府の判断は、一見突飛に見えるが、実は経済学の新しい地平を切り拓くものだ」と、この「福袋ノミクス」を高く評価する。

野党からは「福袋の中身の事前開示が不十分だ」との批判も出ているが、国民の関心はすでに別の場所にある。政府が試験的に公開したウェブサイトには、来年の正月福袋の在庫状況を問い合わせるアクセスが殺到し、サーバーが一時ダウンする事態に。

時空望遠鏡アマテラスは、果たして何を映し出したのか。それは国家の未来ではなく、刹那的な欲望に一喜一憂する国民の、そしてそれを煽ることでしか支持を得られない国家の、「ありのままの未来」だったのかもしれない。スクリーンに輝く「完売御礼」の四文字が、やけに眩しく見えた。

関係者のコメント

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