忘れ物預り所がスーツケース打楽団に　役所地下から聞こえる“ガコンガコン協奏曲”

市役所地下の忘れ物預り所が、引き取り手のないスーツケースを打楽器に転用し即興コンサートを開催。参加職員は「職務中に叩けるのでストレス解消になる」と笑う。

2025-07-09

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市役所の地下倉庫から「ガコン」「ボフッ」「ピシュッ」と不審な爆音が聞こえる――住民が通報しかけたその正体は、保管期限を過ぎたスーツケースが奏でる打楽器アンサンブルだった。職員は「業務終了ベルより響きが良い」と胸を張り、庁舎はさながら“ロストバゲージ・フィルハーモニー”の本拠地と化している。

忘れ物預り所は毎年数百個のスーツケースを抱える。処分にも費用が掛かり、「ならば叩いて減価償却」を合言葉に、音楽サークル所属の若手主事が提案。底面を切り抜き、キャスターをテンションロッドに転用した結果、低音域は和太鼓、ファスナー部分はハイハットのごとく冴えわたる。職員用電子掲示板には“可燃・不燃・可演”の新分類も追加された。

昼休みには通称「ランチタイムクラッシュ」が開催される。観客は役所を訪れた市民ら十数人。手続きを待たされても、即興リズムで“タイムスタンプの長さ”が誤魔化される仕組みだ。とはいえ爆音対策は必要で、総務課は耳栓を無料配布。防災スピーカーから「本日の震度はスネア＋3」と実況が流れ、危機管理とカルチャーが見事に混線する。

この流れに目を付けた観光課は“インダストリアル盆踊り”ツアーを企画。海外からの視察団に「わが国はリサイクル率だけでなく BPM も高い」と自慢する計画だ。さらに地元菓子メーカーは、トランクのへこみ形を模した瓦煎餅を開発中。噛むたびにパキンと甲高い音が鳴り、顎関節もリズムに巻き込まれる算段である。

一方、文化財保護委員会からは「鎌倉期の鼓より派手」との警戒も。委員長は「歴史的音色の景観」が損なわれると眉をひそめたが、奏者側は「当時の鼓ももとは木材の迷子」と反論。法制課は前例のない音響条例案の作成に追われている。

市長は記者会見で「ゴミ問題、文化振興、職員のメンタルケアを同時に叩き割るスマート施策」と高らかに宣言。が、隣で財政課長がスネアロールよろしく指を震わせ「来年度の予算も同時に破れる」と小声で嘆いた。庁内には今日も、効果測定不能のリバーブが残響している。