全国民「匍匐（ほふく）前進」義務化法案、閣議決定。大手デベロッパーは「横に長いマンション」発表

ヘビの化石発見を受け、政府は「人類の原点回帰」として全国民に匍匐前進を義務付ける法案を閣議決定。健康増進が目的とされ、違反者には「立ち上がり罪」が適用される。これを受け、大手デベロッパーはエレベーターのない「横に長いマンション」を発表し、株価がストップ高を記録した。

2025-08-17

翻訳: EN

社会実験室

全国民「匍匐（ほふく）前進」義務化法案、閣議決定。大手デベロッパーは「横に長いマンション」発表

ヘビの化石発見を受け、政府は「人類の原点回帰」として全国民に匍匐前進を義務付ける法案を閣議決定した。健康増進が目的とされ、違反者には「立ち上がり罪」が適用される。これを受け、大手デベロッパーはエレベーターのない「横に長いマンション」を発表し、株価がストップ高を記録した。

政府が本日、電撃的に閣議決定した「国民の健康増進及び祖先回顧に関する匍匐前進奨励法案」。その発端は、先日国内で発見された古代の巨大ヘビの化石から、「極めて安定的で調和的な社会を形成していたことを示唆する」という謎の痕跡が発見されたことにあるという。政府の未来生活デザイン室は「二足歩行は人類の進化における、いわば『思春期の過ち』。高所を目指す競争社会が格差とストレスを生んだ」と分析。「大地に還り、低姿勢で生きることこそが、真の調和と健康をもたらす」と、その高尚な理念を強調した。

この決定に、経済界は驚くべき速さで順応した。大手デベロッパー「大地所」は即日、新築マンション「ホリゾンタル・ハイツ」構想を発表。全戸1階建て、エレベーターや階段を完全に排した水平設計で、最も長い棟では端から端までの廊下が1.5キロにも及ぶ。同社のプレスリリースには「見上げるな、未来は横にある。我々は空間を垂直から水平へ解放する」という、哲学的ですらあるキャッチコピーが躍る。移動の不便さについては、床に埋め込まれたリニアレール上を滑る「個人用匍匐台車」を標準装備することで解決するとしており、同社の株価はストップ高を記録した。

この「低姿勢革命」に対し、専門家からは賛否両論が巻き起こっている。東都大学の猿渡（さるわたり）進化人類学名誉教授は、「二足歩行によって解放された手で道具を使い、脳を発達させてきたのが我々ホモ・サピエンスだ。これを捨て去ることは、知的退化への道を開きかねない」と警鐘を鳴らす。しかし同時に、「満員電車で他人の後頭部や背中ではなく、地面を見つめて通勤できるなら、現代人のストレスは大幅に軽減されるかもしれない」と、一定の理解も示す複雑な心境を吐露した。

新法案では、公共の場で正当な理由なく3秒以上直立歩行した国民に対し、「立ち上がり罪」を適用。初犯は厳重注意と「匍匐による街路清掃3時間」の社会奉仕活動が、再犯者にはより長時間の奉仕活動に加え、「なぜ私は立ち上がりたかったのか」と題したA4用紙10枚の反省文の提出が義務付けられるという。

すでにアパレル業界では、膝と肘に強化パッドを内蔵した「ビジネス・クロウル・スーツ」の開発が急ピッチで進められており、スポーツ界では次期国体から「男女混合匍匐リレー」を正式種目とする方向で調整に入った。また、これまでバリアフリーの観点から問題視されてきた階段は、「二足歩行時代の貴重な遺構」として文化財に指定する動きも出ている。

政府は「匍匐前進は究極のSDGsだ」と主張する。大地と一体化し、自然と目線を合わせることで、環境への配慮が自然に育まれるという理屈だ。既存の車椅子利用者は「先進的低姿勢生活者」として、この変革の先駆者として表彰されることも決まった。

我々はどこへ向かうのか。いや、どこへ這っていくのか。ビルを見上げる首の痛みから解放された我々を待つのは、真の平和社会か、それとも単なる泥濘か。その答えは、我々の新しい目線の先に、静かに広がっている。