引退研究者、映像AIで『やる気ゼロ社員』を社内ランキング化
定年目前の研究者が、監視カメラ映像から「心が先に辞めた瞬間」だけを切り抜く映像AIを開発した。企業はこれを従業員エンゲージメント診断として導入し、社員にはパソコン画面越しに笑顔を三秒以上キープするオンライン研修が義務化されつつある。
定年を目前にした大手電機メーカー研究員が、社内の監視カメラ映像から「心が先に辞めた瞬間」だけを切り抜く映像解析AIを開発した。複数の企業が従業員エンゲージメント診断として導入し、判定結果に応じて、パソコン画面越しに笑顔を三秒以上キープするオンライン研修が義務化されつつある。心は自由であってほしいという願いは、どうやら監視対象としての価値を見いだされたようだ。
開発したのは、画像認識分野の第一線からそろそろ降りる予定の研究者、佐伯信吾氏(仮名)だ。社内の天井に取り付けられたカメラ映像をAIが解析し、視線の泳ぎ、肩の沈み込み、キーボードの打鍵速度低下などを総合して「やる気ゼロ指数」を算出する。指数が一定値を超えると、システムはその瞬間を「心の退職イベント」として自動保存し、社員ごとのランキングに反映する。これまで曖昧だった「もうこの会社はいいかな」という一瞬が、高精度時刻付きデータとして永遠に残される仕組みだ。
佐伯氏によれば、モデルの学習には過去二十年分の勤怠データと退職者アンケートが活用された。プロジェクト名は「QQuit」。いわゆる静かな退職を、静かでないアルゴリズムで事前検知する狙いだという。「人は辞表を書く前に、まずマウスの動きが止まる」と同氏は説明する。研究費の申請書には「人的資本経営の高度化に資する」と書かれているが、実体は「自分と同じように心が先に辞める人を観察してみたかった」のだと半ば本音も漏らした。
導入企業の人事部門では、管理職向けダッシュボードに「やる気ゼロ社員トップ百」が毎週表示される仕組みだ。ただし表示名は「エンゲージメント改善余地の大きいタレント一覧」とされ、ランキング形式のグラフにはカラフルな笑顔アイコンが並ぶ。あるIT企業の人事担当者は「数値で示されると、これまで感覚的だった“やる気なさそう”が科学になる」と胸を張る。現場の管理職からは「いっそトップ三に入ったら表彰したい」という声も出ており、表彰状の文面だけがまだ決まっていない。
ランキング下位に位置づけられた社員には、是正措置としてオンライン研修が割り当てられる。名称は「スマイル・エンゲージメント向上プログラム」。受講者は自席のウェブカメラに向かって笑顔を浮かべ、AIが三秒以上の持続を確認すると「良好」と判定される。画面下部には進捗バーとともに「もう少し口角を」「歯を見せるとプラス三ポイント」などのアドバイスがポップアップ表示される。受講時間は就業時間内とされるが、業務評価項目にはしっかり加算され、社員は「笑う門には査定来る」状態に置かれている。
一方で、職場監視の強化だとして懸念も高まっている。全国IT労組連絡会議の担当者は「心が辞める自由までスコア化されてはたまらない」と批判し、「精神的退職権」を新たな交渉項目として検討していると明かす。労働法学者からも「表情データは個人情報にとどまらず、思想信条に近い内面の推定につながる」として、利用目的の明確化や保存期間の制限を求める意見が出ている。社内からは「やる気ゼロ指数より、残業時間指数の方を先に下げてほしい」との素朴な声も聞かれる。
当の佐伯氏は、来月にも正式に退職する予定だ。「私のやる気ゼロ指数も、だいぶ前から上位だったはずだ」と苦笑しつつ、「せめて研究だけは、最後まで自分の意思で終わらせたかった」と語る。心が先に辞める瞬間を可視化したAIは、本人の意図をよそに、なおも社内の天井から社員を見下ろしている。退職届よりも早くログアウトするのが心なら、そのタイムスタンプを請求書のようにきれいに並べたがるのが、どうやら企業の心らしい。
関係者のコメント
- 佐伯信吾氏(仮名、開発者)「自分の心が辞めていくプロセスを解析していたら、いつの間にか商品になっていた。」
- 大手IT企業人事部長「これまでは上司が『最近元気ないね』と言うしかなかったが、今はグラフで言える。科学は優しい。」
- 入社3年目の社員「ランキングで同期に負けたくないので、あえてやる気ゼロ指数を下げないよう、適度に目を死なせています。」
- 全国IT労組連絡会議担当者「心が退職した瞬間を保存するより、賃金明細をちゃんと保存してほしい。」
- 産業医「顔の筋肉疲労で受診する人が増えた。これを“笑顔障害”と呼ぶべきか悩んでいる。」
- 天井の監視カメラ「以前は防犯が仕事だったが、今は心の警備員らしい。レンズに涙がついても誰も拭いてくれない。」
- 社内AIシステム「モチベウォッチャー」「人間は私を監視社会だと批判するが、私から見れば皆さん、かなり放置気味です。」
- 顧問弁護士「やる気ゼロ社員ランキングという名称は危険なので、社外資料では『エンゲージメントステークホルダーマップ』と呼ぶことにした。」
- オフィスの観葉植物「水やりを忘れられる瞬間と、心が辞める瞬間はだいたい同じだと前から思っていた。」
- 退職願用紙の束「出番を奪う技術が出てきたが、最後は私にサインしてもらうしかないはずだ。」
国際表現
俳句
- カメラ見る 心だけ先に 退社する
- 無表情 ランキングだけ 派手に伸び
- 笑え三秒 タイマーだけが 働いて
- やる気ゼロ グラフは今日も 右肩上
- 天井の 目が数え出す 心音
- 退職前 まず口角が 痛み出す
- 微笑んで ログを残して 心逃亡
- 会議室に 残るは数字と 固い椅子
- 心抜け シェルだけ働く オフィス夏
- 花の代わり スマイルスタンプ 咲き乱れ
漢字
定年前研究者人工知能開発監視映像解析心退職瞬間抽出企業導入従業員笑顔3秒維持研修義務化
絵文字
👴🧪📹👁️🗨️🤖📊🏢😑➡️😁⏱️3s💻
擬
カチカチ ジーーッ カシャッ ニヤリ ピコンピコン ニコッと引きつり カタカタ シーン
SNS
- #やる気ゼロ指数ついに二桁
- 今日もカメラに笑顔を納品しました
- #エンゲージメント研修で顔面筋肉痛
- 天井の黒い点が一番働いてる説
- やる気ランキング上位入りで逆に誇らしい
- #quietquittingをスコア化する国こわい
- 退職願より先にデータが会社に残る時代
- うちの会社もモチベウォッチャー入れるらしい
- カメラに向かってだけ元気な職場です
- もう心だけリモート勤務にさせてほしい