おならで発電する体重計、毎回軽く表示

腸内ガスをセンサーに吹き込むと発電し体重を測定する『自家発電体重計』が発売された。愛用者からは「測るたびに軽くなる」と歓喜の声が上がる一方、専門家は「数字が正確ではないのでは」と首をかしげる。

2025-07-04

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発売元のスタートアップ「フラットレンズ・パワー社」は七日、都内で製品発表会を開催。壇上には白衣姿の開発者と、椅子に腰掛け両手を組むスーツ姿のCEO、そして背筋を伸ばしてしゃがむモデルが一人。「こちらが、世界初の“屁力発電”です」の発表で、会場は期待と不安の入り混じった沈黙に包まれた。直後に響いた「プスッ」という控えめな炸裂音と同時に、体重計の液晶は緑色に点灯し、モデルの体重が標準値より1.4キロ軽く表示された。

仕組みは単純明快（と同社は胸を張る）。腸内ガスが裏面の極小タービンを回転させて電力を生み、その電力で重量センサーを駆動する「循環型システム」だ。実際の重量は計測できるが、発生したガスの流速を「貢献度ポイント」としてマイナス補正するため、排出が多いほど数値が小さくなる。「頑張った分だけ軽くなる、まさに励み値」と開発責任者は鼻息荒い。

利用者の声も軽やかだ。都内在住の会社員（42）は「毎朝“放電”してから乗るだけで、数字だけでなく気分も軽くなる」と満面の笑み。食事管理アプリとの連携機能も人気で、アプリ側は食事写真より先に“夜のハーモニー”を解析しカロリーを推定する。「もうレコーディングダイエットは鼻で笑う時代です」とPR担当が語る。

ただし専門家の指摘は辛口だ。東都大学消化器学教授の肴谷仁志氏は「ガス噴出時の衝撃で一時的に体重が浮く“マイクロ浮揚”が起きる」と分析し、「数字が軽く見えるのは理論上0.02キロ、残りは気分の問題」と切り捨てた。さらに「健康指標を幻想で包むのは危険」と眉をひそめつつも、「運動嫌いを動機づける香ばしい手段としては面白い」と大人のコメントを残した。

環境面でも議論はくすぶる。同社は「化石燃料ゼロの超グリーン」と誇るが、地球温暖化を招くメタンと一酸化二窒素はスルー。環境NGO「風とともに去りぬ」代表は「尻からタービンへ直行する排ガスは排気前に回収されないため、地球にはダイレクト排出」と指弾。それでも同社は「メタンの逃げ足が速いからカウント不能」と突っぱねた。

市場はすでに熱風を帯びている。家電量販店では初回入荷分が午前で完売。「ダイエット＝我慢」の方程式を「ダイエット＝放散」に書き換えた革新性が受けた形だ。スポーツジムでは導入キャンペーンを検討中で、「トレッドミルより尻強調エクササイズが流行れば電気代も浮く」（運営会社）と皮算用。かくして健康産業は今日も、におい立つ未来に胸を張る。

政府も黙ってはいない。経産省と厚労省は合同で「ガス活用指針」を策定へ。聞き慣れぬ部署名「屁ネルギー政策室」が新設され、早くも省内の空気が変わった。「再エネは風力から“腸力”へ」を標語に、補助金の検討が進むという。税金で尻を煽る構図に世論はざわつくが、霞が関から漂うのはいつもの“お役所臭”であった。

数値か、気分か、はたまた匂いか。数字が軽くなるたび、人々の心は重くなる浪費や自己嫌悪をそっと手放す。風刺を恐れぬ同社のキャッチコピーは「体重は出るもの次第」。思わず納得しながら、記者も取材帰りにそっと膝を曲げた。次の計測が楽しみな自分に気づき、軽くショックである。